アスリートが体重を増やす(減らす)時に大切なこと

選手・一般の方向け

本記事では

  • ・アスリートって体重増やした方がいいの?
  • ・アスリートって体重減らした方がいいの?

のような疑問に答えます。
体重について悩んでいるアスリートもいらっしゃるかと思います。体重がパフォーマンスに与える影響も少なくありません。競技によっても体重があった方がいい場合と少ない方がいい場合と様々です。そこで今回はアスリートの体重について詳しく解説します。

1.アスリートが体重を増やす(減らす)時に大切なこと

1−1.体脂肪が少なく筋量多い方が有利

体重は体脂肪や骨、内蔵、筋肉などを合計したものです。選手にとって体脂肪は重りで、筋肉は身体を動かすエンジンとなります。従って、選手は基本的には筋量が多く体脂肪が少ない方が有利です。余計な重りがなく大きなエンジンを持っているということになるからです。「オフシーズンに体重を◯kg増やした」と書いてある記事を見ることがありますが、実際に筋量が増えているのか、脂肪が増えているのかで選手のパフォーマンスは大きく異なるでしょう。トレーニングせずにただ体重が増えたということはおそらく脂肪が増えていることになります。結果的には余計な重りが増えていることになるのでパフォーマンスが向上するとは思えません。一方、体脂肪がそのままかむしろ減っていて筋量が増えることで体重を増やすことができた場合は、より力がでるようになっている可能性が高いので、パフォーマンスにはいい影響があるといえます。ただし、数週間で筋量が急激に増える可能性は低いので、オフシーズンで急激に体重が増えている場合は、筋量と一緒に体脂肪も増えている可能性が高いです。

1−2.体重が重いことが有利なスポーツもある

ラグビーや野球などのスポーツなどでは単に体重が重いことが有利になる場合もあります。野球選手が体重を増やすことに関しては以前記事を書いているのでそちらも参考にしてみてください。

【#35 ピッチャーが体重を増やすことがパフォーマンスに与える影響について】

ラグビーなどのコンタクトがあるスポーツでは、体重が重いことで運動量を増やすことができます(ここでいう運動量とは、試合中でどれだか動いたかを示すものではなく力学的な運動量ですのことです)。運動量は「体重×速度」で示されます。体重が重く速度が変わらないという場合、単に重いだけで接触の時の勢いを増やすことにつながります。研究によってタックルの成功率は体重や速度ではなく運動量とより強く関連していたということもわかっています(2)。また、体重が重いほうが地面との摩擦を大きくすることができます。ですので、スクラムなどの押し合いの時には単に重いことも有利に働きます。

接触があるスポーツの場合は、単純に重たいということがメリットになる場合が多いです。しかし、脂肪ではなく筋量が多いことで体重が重い方が有利であることは間違いありません。

1−3.体重が軽い方が有利なスポーツもある

一方、長距離ランナーやスポーツクライミングなどの競技では、体重が軽い方が有利になることもあります。自分の体重を長い距離移動させたり、壁を登っていく時には軽い方がエネルギーや力を使わないからです。

しかし、冒頭でお伝えした通り、筋量が多く脂肪が少ない方が有利になるため体脂肪が少ないことが有利なことに変わりありません。またあまりに軽すぎて筋量が少なく、出力が小さいことは不利に働くこともあります。軽い方が有利といって体重を減らして筋量まで減らしてしまうのはデメリットもあるので注意しましょう。

1−4.ウエイトトレーニングでは体重を増やすことも増やさないこともできる

筋量を増やしたり、筋の出力を上げるためにはウエイトトレーニングが効果的です。ウエイトトレーニングと聞くと筋骨隆々のボディービルダーをイメージされる方も少なくありません。しかし、ウエイトトレーニングで筋量の増加をしながらトレーニングすることもできれば、筋量の増加を抑えながらトレーニングをすることもできます。

筋の適応には大きく2種類あります。「筋肥大」と「神経系」の適応です。筋肥大とは、筋線維(正確には筋原線維)が増加することにより、筋肉が大きくなることを指します。筋肥大を狙ったトレーニングを行なうと筋量を増加させることができます。神経系の適応とは、例えばこれまで力を出す時に10本の筋線維のうち3本しか使えなかったとします。それがトレーニングをすることによって5本使えるようになるということです。つまりトレーニングによってこれまで使っていなかった筋を使えるようになります。神経系の適応を狙ったトレーニングをすると筋量の増加を抑えながら筋の出力を上げることができます。

これらの変化はトレーニングプログラムを変化させることによって可能になります。もちろんプログラムは筋肥大や神経系の適応のどちらを狙うかということ以外にも考慮すべき点はたくさんあるので、プログラムを組むのは簡単なことではありません。競技種目や今課題となっていること、トレーニングの習熟度、大会までの日程などこれ以外にも考えることはたくさんあります。もしトレーニングでお困りのときは一度専門家に相談することをおすすめします。

2.まとめ

体重を増やす(減らす)といっても体重のどの要素が変化しているかを考えることは重要です。また、種目によって行なうトレーニングにも違いが出てきます。ウエイトトレーニングは「スクワットを◯回◯セットやればいい」というような単純なものではありません。お伝えした通り、個々に合わせて内容を変化をさせる必要があります。

また、体重の増減を含めて身体を変えていくにはトレーニングだけではなく体重の管理とともに食事などのリカバリーも大切になります。体重管理の方法とリカバリーの具体的な方法はNoteの中で詳しく解説しています。ご興味がある方は是非ご一読ください。

<Note:疲労を早めるために【リカバリーの方法について解説】>
※タイトルに「体重」は入っていませんが体重管理についてもしっかり解説しています。

単に体重を増やすのではなく、スポーツのよりパフォーマンスの向上させられるように自己管理をしながら取り組んでいただければと思います。

<参考文献>
1.Warren Young, Scott Talpey, Rogan Bartlett, Mitchell Lewis, Stephanie Mundy, Andrew Smyth, Tim Welsh, 筋量の増加:どの程度がパフォーマンスに最適なのか, Strength&Conditioning journal, 27(1), 45-48, 2020
2.Sharief Hendricks, David Karpul and Mike Lambert, Momentum and kinetic energy before the tackle in rugby union, Journal of sports science and medicine, 13, 557-563, 2014