スポーツをバイオメカニクス的に考えるとは?【より勉強したい方向けの本も紹介します】

指導者向け 選手・一般の方向け

バイオメカニクスを勉強していても、実際のスポーツ動作との繋がりがいまいちわからないという方も多いと思います。バイオメカニクスはまず力学がわからなければ理解できないですし、力学が分かってもいざ「スポーツで考えてみよう」と思った時につまずく方もいるでしょう。(そもそも「バイオメカニクスってなに?」という方はこちらの記事をご覧ください)。

筆者は大学・大学院でバイオメカニクスを専門に勉強してきました。バイオメカニクスを知っていると、知見を指導に応用できるだけでなく、自分が知らないスポーツにおいても、目的とする動きがなぜできないかを力学的に考え、その原因を探ることができます。トレーニング指導をしていても、自分が経験していない種目のアスリートと会話をする中でバイオメカニクスの知識が役に立つことも多くあります。

そこで今回はいくつか事例を紹介しながら、スポーツを力学的に考えるとはどういうことかについて解説します。また、より詳しく勉強したい方のために本も紹介します。

1.バイオメカニクスのスポーツへの応用の仕方

1−1.抽象的な表現を力学的な表現へと変える

「キレがある動き」や「切り返しが速い」「当たり負けしない」など、スポーツにおいて抽象的に表現される言葉は多くあります。スポーツをバイオメカニクス的に考えようと思ったら、まずこれらの表現を「力学的な表現に変えるとどうなるか?」について考えます。

例えば、「切り返しが速い」とは具体的にどのような動きでしょうか?切り返しの方向にもよりますが、例えば180°方向転換する切り返し動作の場合、進行方向への速度を小さくし、速度が0になったのち、反対方向へ再び加速するという動作になっています。すなわち素早く切り返すためには、より短い時間で減速と加速をするという動きが必要です。減速と加速は単位時間あたりの速度の変化率が大きい=加速度が大きい(小さい)ということになります。従って、切り返しが速い選手は遅い選手に比べて加速度に違いがあるということが予想されます。

このように「切り返しが速い」という表現を「速度」や「加速度」を用いることで力学的な表現に変えることができます。スポーツをバイオメカニクス的に考えようとしたとき、運動を力学的に表現するという作業は重要です。

1−2.実例1:前転の運動課題

器械体操の前転はおそらく皆さん経験があるかと思います。では前転ができない原因はなんでしょうか?前転を力学的な視点から考えると、前転で立ち上がるために必要なことは「速度」です。速度が足りないと1回転して立ち上がることができません。

では速度を獲得している動きはどのような動きでしょうか?前転をするとき一番最初に速度を獲得している動きは、動き始めの蹴り出しです。つまり前転では、まず足で地面を押すことによって身体を加速させています。

では、足で強く地面を蹴って身体を加速できれば前転はできるでしょうか?身体が回転している時に減速してしまっては、結果的に速度が小さくなり立ち上がることができなくなります。すなわち回転しているときに「減速しないこと」が必要になります。減速しないためには回転しているときに身体を小さくすることが必要です。これは慣性モーメントを小さくし、速度を大きくすることにつながります(これについては3項で少し詳しく解説します)。

このように前転ができるようになるためには「足で地面を蹴って速度を大きくする」「回っているときに身体を小さくし慣性モーメントを小さくする」ということが必要です。

このように前転という運動を力学的(バイオメカニクス的)に考えることができると、なぜ前転ができないのか?を考えることができます。

1−3.実例2:フィギュアスケートのスピンの速度を変える要因

フィギュアスケートの選手が「スピン」をしている時、回転の速度がいきなり速くなったり遅くなったりするシーンを見たことがあるかと思います。これはどのようなメカニズムで起こるのでしょうか?選手は何をすることで速度を変えているのでしょうか?

これは2項の最後で紹介した「慣性モーメント」で説明をすることができます。慣性モーメントとは回りにくさのことです。バットを短く持つとバットを速く振ることができますよね?反対に長く持つとバットは振りにくくなります。慣性モーメントが大きいほど回りにくいということを示しているので、バットを短く持つ方が慣性モーメントは小さく、長く持つほうが慣性モーメントは大きくなります。

フィギュアスケートのスピンでは、バットの原理と同じ要領で手を広げたり閉じたりすることで回転の速度をコントロールしています。すなわち、手を閉じれば慣性モーメントは小さくなるので回転の速度が大きくなり、手を広げると回りにくくなるため回転の速度は小さくなります。

※実際には「角運動量」という概念を理解していないと正確な理解にはつながりません。興味がある方は、後でご紹介する書籍で勉強してみてください。

1−4.少し詳しく勉強したい方におすすめの本

バイオメカニクスを勉強しようと思ったら一度は目にしたことがある本かと思います。実際の計測方法や数式も載っているので読むのが大変かもしれませんが、上手にわからないところを省きながら読み進めるとよいと思います。先程紹介した角運動量の話も詳しく載っています。

トレーニングのことが多く書かれていますが、後半にスポーツの力学についても書かれています。トレーニングのやり方による負荷の違いについて、力学的な解説もあります。図が多くバイオメカニクス20講よりも読みやすいかもしれません。

2.まとめ

バイオメカニクスを勉強していても、実際のスポーツでどのように考えたらいいかわからないという方のために、スポーツをバイオメカニクス的に考えるということはどういうことかについて解説しました。スポーツの事例は多くあるので、ご自身が興味がある動きがなぜそうなっているのかについて是非考えてみてください。きっと指導や練習に役立つ新しい発見があるはずです。この機会に勉強してみてはいかがでしょうか?

<参考文献>
バイオメカニクス20講, 阿江通良, 藤井範久, 2002, 朝倉書店