#35 ピッチャーが体重を増やすことがパフォーマンスに与える影響について

指導者向け 選手・一般の方向け

最初に断っておきますが僕は野球の専門家でもなんでもありません。しかし、バイオメカニクスを専門に勉強してきたことから、ピッチャーが体重を増やすことが投球動作にどのような影響を与えるかを力学的視点を元に解説することはできます。今回は体重を増やすことのメリットについてバイオメカニクス的視点から解説したいと思います。

ピッチング動作の力学的なメカニズムについて説明します。より速い球を投げるためには運動連鎖と呼ばれる身体の中心部や下肢で生み出した力、速度、エネルギーをタイミングよく末端に伝え、末端の速度を大きくする必要があります。この時に中心部で発揮されるエネルギーが大きいほど最終的な末端の速度を大きくすることができます。中心部で発揮するエネルギーを大きくするためにできることの一つに胴体の質量を大きくすることがあります。体重を増やすことで胴体の質量を増やすことができれば、(そのエネルギーが末端に上手く伝わったと仮定すると)結果としてボール速度を大きくすることができます。従って単純に身体の中心部を重くするだけで理論上はボールスピードを大きくすることができるということになります。

現実的には体重を増やしただけではボール速度は大きくならないでしょう。身体が変化すれば出力のタイミングは変化する(垂直跳びのシュミレーションの研究などで言及されている)のでそれを調整するために練習をする必要があります。

また、体重を増やすといっても、脂肪が増えるのか筋量が増えるのかによっても身体に与える影響は異なります。筋量が増えるのであればそれに伴って筋出力も向上するはずなので、脂肪によって体重が増えた場合で比較すると、身体をより加速させる能力なども向上するはずです。従って、結果的にパフォーマンスに与えるポジティブな変化は大きいと考えられます。

ボール速度を大きくする方法はいろいろあると思いますが、ただ単純に体重を増やすということもその方法の一つです。プロの選手が体重を増やすことをどのような目的で行っているかはわかりませんが、力学的な視点から考えるとこんなメリットがあるんじゃないの?ということの紹介でした。

<参考文献>

スポーツバイオメカニクス20講, 阿江通良, 藤井範久, 朝倉書店(2002)