マラソンランナーが筋トレをした方がいい理由
ランニングなどの持久系種目は従来、筋トレとの相性が悪いと言われています。筋トレの後に長時間ランニングやバイクなどの運動をすると、筋トレの効果が薄れてしまうことが科学的に証明されています。
また、一般的に「筋トレ」と聞くと、筋骨隆々の身体になったり身体が重くなったりするのではないかというイメージがあり、ランナーの方がウエイトトレーニングするのは躊躇われるかもしれません。
しかし一方で、数々の研究において、ウエイトトレーニングを取り入れることにより、ランナーやトライアスロンなどの持久系競技選手のパフォーマンスを向上させることが示されています。
今回はマラソンなどの持久系競技に取り組むアスリートや愛好家の方が、筋トレをするべき理由について解説します。
1.マラソンランナーが筋トレをした方がいい理由
1−1.理由① パフォーマンスが向上する
マラソンなどの持久系競技に取り組む方が筋トレ(ウエイトトレーニング)をした方がいい理由は「パフォーマンスが上がるから」です。つまりウエイトトレーニングをすることによってタイムが縮む可能性があるからです。
ウエイトトレーニングが持久系パフォーマンスに与える効果に関する研究についていくつか紹介します。
Storenらは長距離ランナーに8週間筋力トレーニングを行いその効果について検討しました。その結果、ウエイトトレーニングを実施したグループは実施していないグループに比べ、ランニングパフォーマンスが(有意に)向上したことを報告しています(1)。また、この研究では、ウエイトトレーニングを実施したグループと実施していないグループの両グループで、トレーニング前後において体重には変化がみられかったことが示されています。従って、筋トレを実施しても体重が増加する可能性は小さいといえます。
Aagaardらは自転車競技選手に週2〜3回のウエイトトレーニングを合計16週間実施し、ウエイトトレーニングを実施したグループと実施していないグループでパフォーマンスに違いが出たかを検討しました。結果は、ウエイトトレーニングを実施したグループの方が、実施していないグループに比べて持久系テストの結果がよかった(有意に向上した)ことを報告しています(2)。
これら以外にも、多くの研究でランナーをはじめとする持久系競技選手に対するウエイトトレーニングの有効性が示されています。従って、持久系競技に取り組む方にとって、よりパフォーマンスを向上させるために筋トレは有効であるといえるでしょう。
1−2.理由② 怪我をしにくくなる
ランナーが筋トレをするべきもう一つの理由が「怪我をしにくくなるから」です。「ウエイトトレーニングは重たい重りをもつから危ない」というイメージをもたれる方もいらっしゃるかと思います。しかし、適切なウエイトトレーニングはパフォーマンスを向上させるだけでなく傷害を予防することができます。持久系アスリートを指導していても、怪我が少なくなったという感想をいただくことがほとんどです。ここでウエイトトレーニングと傷害予防に関する研究をご紹介します。
サッカーの研究ですが、シーズンを通してウエイトトレーニングを実施した選手の方がウエイトトレーニングを実施していない選手よりもシーズン中の怪我が少なかったことが報告されています(3)。また、別の研究ではストレッチなどよりもウエイトトレーニングの方が怪我を予防できる可能性があることも報告されています(4)。
パフォーマンス向上ということに加えて「傷害予防」という観点でも長距離ランナーの方にとってウエイトトレーニングは効果的です。
1−3.鍛えるべき部位はどこか
「筋トレ」といってもただ闇雲にスクワットやベンチプレスをすればいいというものではありません。パフォーマンスを向上させるために鍛えるべき部位があります。それは主に股関節を伸展(脚を身体後方に振り出す動作)させるための筋です。具体的には臀筋やハムストリングがこれにあたります。これらの筋を鍛える重要性は研究でも指摘されています。
ケニア人長距離選手と日本人長距離選手の走動作を比較した研究では、ケニア人の選手が日本人選手に比べて股関節の伸展方向に発揮したパワーが大きかったことが報告されています(5)。また、別の研究では、長距離走のタイムが速い選手ほどハムストリングの筋が大きかったことも報告されています(6)。
従って、長距離のランニングにおいてより高いパフォーマンスを発揮するためには、股関節の伸展方向に大きなパワーを発揮できることが重要であり、それを担うハムストリングや臀部を鍛えることは重要といえます。
1-4.ランナーが取り組むべき「筋トレ」
ここまでで長距離ランナーの方がウエイトトレーニングを行うべき理由について解説しました。では、実際にどのようなトレーニングをすればいいのでしょうか?「下半身を鍛える種目は?」と聞かれると真先に浮かぶのはスクワットかと思います。しかし同じスクワットでもフォームによって鍛えられる部位は異なります(これは研究によっても示されています(7))。従って、なにも知らないまま自己流で、ただ重りを担いでスクワットをするのはオススメしません。効果がないばかりか怪我をするリスクもあります。実施する場合は、専門家に一度見てもらうか、しっかりと勉強したうえでトレーニングをやってみてください。
2.まとめ
今回は長距離ランナーの方が筋トレをするべき理由について解説しました。ウエイトトレーニングは適切に行えば長距離のランニングのタイムを縮めることに貢献します。よりタイムの向上を目指す方は是非「筋トレ」をとりいれてみてください。
<参考文献>
1. Oyvind Storen, Jan Helegreud, Eva Maria Stoa, and Jan Hoff, 2008, Maximal strength training improves running economy in distance runners, Medicine & Science in Sports & Exercise, 1089-1094
2. P. Agaard, J. L. Andersen, M. Bennekou, B. Larsson, J. L. Olesen, R. Crameri, S. P. Magnusson, M. Kjaer, 2011, Effects of resistance training on endurance capacity and muscle fiber composition in young top-level cyclists, Scand J Med Sci Sports, 298-307
3. Sghair Zouita, Amira B. M. Zouita, Wiem Kebsi, Gregory Dupont, Abderraouf Ben Abderrahman, Fatma Z. Ben Salah, and Hassane Zouhal, 2016, Journal of strength and conditioning research, 30(5), 1295-1307
4. Jeppe Bo Lauersen, Ditte Marie Bertelsen, Lars Bo Andersen, 2014, The effectiveness of exercise interventions to prevent sports injuries: a systematic review and meta-analysis of randomised controlled trials, Br J Sports Med, 48, 871-877
5. 榎本靖士, 2005, ケニア人長距離選手の走動作の特徴, 月刊陸上競技, 4, 134-137
6. 吉岡利貢, 中垣浩平, 向井直樹, 鍋倉賢治, 2009, 筋の形態的特徴が長距離走パフォーマンスに及ぼす影響, 体育学研究, 54, 89-98
7. 真鍋芳明, 横澤俊治, 尾縣貢, 2004, 動作形態の異なるスクワットが股関節と膝関節まわりの筋の活動および関節トルクに与える影響, 体力科学, 53, 321-336