#40 研究とは?論文を読み解くために必要なこと【論文初心者向け】

指導者向け

最近、「エビデンスに基づいた指導」や「科学的根拠に基づいた指導」などの言葉をみかけるようになりました。運動指導をする際に自分の感覚や経験だけではなく、科学的に実証されたことに基づいて指導をするということかと思います。論文や専門書で勉強した知識をもとに運動指導をするということは、より効果的で効率的な指導することにつながります。しかし実際に論文を読もうと思ってもなかなか内容が理解できなかったり、難しいと感じる方も少なくないかと思います。

自分もまだまだ勉強中の身ですが、大学院を修了し論文も投稿した経験があるので(詳しくはこちら)、「研究」や「論文」のことは多少なりとも理解しているつもりです。

そこで今回は「研究や論文のことはイマイチよくわからない」という方や、「もっと論文を読んでみたいがどのように論文を勉強したらいいかわからない」という方のために、研究や論文の基礎的な事柄について整理し、論文を読むために必要な知識とその勉強法についてご提案できればと思います。

1.「論文」ってなに?

1−1.論文・研究とは?

論文とは「研究の結果を報告した文書」であり、研究とは「端的に言えば仮説の検証」です(1)。例えば、「スクワットをすれば垂直跳びが伸びるはず」や「トレーニング後すぐプロテインを飲めばより筋力がつくだろう」という仮説を思いついたとします。それを実験して実際にどのような結果が出るか試し(これが研究)、文章にまとめたのが論文です。実験した結果を論文として発表するためには「査読」という審査を通過する必要があります。査読では投稿された文章が論文として相応しいかを審査しています。例えば、先ほどの「スクワットをすれば垂直跳びが伸びる」ということは自分1人でも実験は可能ですよね?ただ自分1人で実験したとしてもそれが他の人に当てはまるかはわからないし、そもそも実験の方法が適切かどうかもわかりません。従って、査読によって実験のやり方が適切か、結果の解釈は正しいかなどを審査するわけです。その審査(査読)を通過したものが世の中に「論文」として発表されています。

1−2.論文の構成

論文を目にしたことがある方はご存じかもしれませんが、論文は大抵、「緒言(しょげん)」「方法」「結果」「考察」「まとめ」の5つの構成で書かれていることが多いです(必ずしもこの限りではない)。各項目には以下のことが書かれています。

「緒言」:この研究をするに至った背景やこれまでどのような研究があったのか(先行研究)について

「方法」:実験を行った方法について。ちなみにここで書かれている方法は他の人が同じ実験をしても再現できるよう書かなければなりません。実験に参加した人(被験者)の情報やどのような器具を使ってどのように調べたかなどが詳細に述べられています。

「結果」:実験の結果が書かれています。重要なデータはグラフになっていることが多いです。

「考察」:なぜこの結果になったのか、得られた結果からどんなことが考えられるのかが書いてあります。

「まとめ」:論文の簡潔なまとめが書いてあります。

論文を全く読んだことがない方は気になる論文を調べて(調べ方は次項で紹介します)緒言を読んでみることをお勧めします。緒言を読めばその分野でこれまでどんな研究が行われているかなどを知ることができます。また、先行研究も多く引用されているのでそこから別の論文を調べることもできます。

1−3.まずは1つ読んでみよう(論文の探し方)

まずは自分の興味がある分野について論文を探して読んでみましょう。はじめに読む論文は日本語の方が良いと思います。この文献(1)にも書かれていますが、英語の論文は背景的な知識が足りなかったり専門用語がわからなかったりすると、読むスピードが遅くなるだけでなく文章の理解が深まりません。英語論文を読む場合は日本語の論文や専門書である程度知識をつけてから読むことをお勧めします。

論文を検索できるサイトを2つ紹介します。

CiNii(サイニー)

Google scholar(グーグルスカラー)

CiNiiは日本語の論文を検索することができるサイトです。Google Scholarは海外の論文も日本論文も両方検索できます。個人的には日本の論文を調べるならCiNiiがいいかと思います(が、ぶっちゃけどちらでもいいです)。興味があるワードを入れて検索してみてください。オープンアクセス(PDFなどでネットに掲載されている論文)になっているものは無料で読めるので、ダウンロードして印刷するのもおすすめです。

1-4.まずは1つ読んでみよう(論文の読み方)

まず始めに頭に入れておいていただきたいことは「論文を全て完璧に理解しようとしない」ということです。論文を読んだことがない場合(あってもかもしれないが)、書いてある内容を完璧に理解することはまず不可能です。従って最初は「緒言」に書いてあることが理解できることを目指しましょう。専門的に学んだことがない分野や知識が少なければわからない専門用語があるはずです。それを調べながらじっくり読み進めてください。また、引用してある論文で興味あがるものが出てくればそれもメモしておくといいでしょう。緒言を理解しようとしてわからない用語を調べて理解しようと努めていけば、自然に知識も身についてくるはずです。

2.論文を読むために必要な知識

2−1.統計学は避けて通れない

はじめは緒言を読みながら勉強を進めれば良いかと思います。しかし論文を一歩踏み込んで理解しようとした場合、「統計学」を理解している必要があります。例えば、「トレーニングの実験でトレーニング前後の垂直跳びの伸び率を比較すると、スクワットのトレーニングをした群の方がトレーニングをしていない群と比較して伸び率が「有意に」大きかった」などの記述が出てきます。この「有意に」というのは統計学的に意味がある差であることを示しています。従って「統計学」をある程度理解していないと論文で書いてある内容は理解できません。ただこの「統計学」は結構厄介で、勉強するにはそれなりに時間と労力が必要です。自分も大学・大学院時代に色々な本を読んで勉強しました。いきなり難しい本を読んでも理解が進まないかと思います。そこで独学で統計学を勉強する方を想定し、おすすめの本をご紹介します。

2-2.統計を学ぶためのおすすめの本

全く知識がない人でも読み進められる1冊。難しい数式は一切出てこないので数学が苦手な人にもオススメです。

マンガで書いてあるので内容もわかりやすく基礎的な事項を抑えるのにオススメです。自分が大学・大学院時代に何度も読み直した本の1つでもあります。

論文を読み進めていくと「回帰分析」や「因子分析」というワードに遭遇することがあります。上記の2冊はその名の通り「回帰分析」と「因子分析」について詳しく書かれた本です。基礎を抑えて少し発展的な内容も知りたいという方にオススメです。「マンガでわかる統計学」と同じくマンガメインで書かれているので内容は分かりやすいです。

3.まとめ

論文を読んでみたいがどうすればいいかわからない方に向け記事を書いてみました。まずは緒言を読めるようにするのはどうかというご提案です。そのあとデータや内容の理解に入っていければよいと思います。いずれにせよ「統計学」は避けては通れない道ですので、並行して基礎的なことを抑えておくと良いかと思います。はっきりいってこの記事1本で何かが変わるかと言われればそうではないと思いますが、論文を読むきっかけ作りになれば幸いです。

<参考文献>
1.山崎憲一, 萬代雅樹,論文とはー読み手, 書き手, 査読編集の視点から, 良い論文に向けてー, 2016, 電子情報通信学会ソサイエティマガジン