#21 力積に関するあれこれ

指導者向け

力積という言葉はご存じだろうか?力積とは力を時間積分したものであり,運動量-力積関係から力積が大きいほど速度は大きくなる.すなわち大きな速度を出すためには力積を大きくすることが重要になる.例えば垂直跳びであればより長い時間,より大きな力で地面を押すことで離地時の速度を大きくすることができる.しかし,力積が同じで到達する速度が同じであっても,力の立ち上がりの違いによって変位に差が生まれることがある.今回はこれらの違いについて考えてみたいと思う.


1.力積とは?

2.力の立ち上がりの違いによる変位の違い

3.まとめ

1.力積とは?

冒頭でも説明した通り,力積とは力を時間積分したものである.「積分」と聞いて嫌気がさす人もいると思うので簡単にグラフを用いて説明する.積分とはつまりグラフの面積の大きさを示すものである.下のグラフを見てほしい.

Aは1Nで1秒間,Bは2Nで1秒間力を発揮している.面積を求めるためには力×時間をすればよいので,Aはの力積は1Ns,Bの力積はは2Nsである(Nsは力積の単位).従ってBの方が大きな力積を発揮していることになり動作開始から1秒後はBの方が速度が大きいことになる.

別の例を示そう.下のグラフではAは2Nで0.5秒間力を発揮し,Bは1Nで1秒間力を発揮したとする.力積を計算するとAは1Ns,Bも1Nsとなり動作時間は違うが,力積は等しいのでAもBも同じ速度となる.

このように力積を計算することで○秒後の速度を考えることができる.

2.力積は同じでも移動距離が異なることがある

1項で説明したように力積が同じであれば到達する速度は等しくなる.しかし,到達速度が同じであっても”力の立ち上がり”が異なることでその動作時間中の変位が異なることがある.下のグラフを見てほしい.

グラフはAとBの力の変化を示したものである.AもBも力積は同じであるが,AはBよりも力の立ち上がりが早く力のピークはBよりも小さい.力積は同じであるので1秒後の速度はAもBも同じである.ここで力≒加速度であるから(#20参照),これを積分し速度の変化を見ると下図のようになる.※このグラフは便宜上のもので正確な値は示していないことをご了承いただきたい.

Aは力の立ち上がりが早いので動作中盤での速度が大きい.一方,Bは力の立ち上がりが遅いので動作中盤での速度はAよりも小さい.これをさらに積分して変位を求めると以下の図のようになる.

Aの方が力の立ち上がりが早く,動作中盤の速度が大きいことからBよりも変位が大きくなる.すなわち,力の立ち上がりが早いことで動作中盤の速度が大きくなり,最終的に変位が大きくなる.このように力積が同じで最終的な速度が同じでも,力の立ち上がりが早いことにより変位が大きくなる.垂直跳びは速度を大きくすること,つまり力積を大きくすることが重要といわれている.しかし,跳躍高を決定する要因は離地時の重心高+離地時の重心速度であるから,離地時の重心高を高くすることも必要となる.一概には言えないが,力の立ち上がりを速くすることでより鉛直方向への変位を大きくすることができその結果跳躍高が高くなることも考えられる.

3.まとめ

今回は力積が同じでも力の立ち上がりが異なることで変位に違いが起こるコンセプトについてまとめた.速度を大きくするために力積を大きくすることは重要であることは間違いない.しかし,力積だけにとらわれずそれ以外の視点から考察を加えることでよりパフォーマンスを深く考えることができる.なお,本記事は結城(2000)を参考にまとめたものである.より学びを深めたい方は文献を参考にしていただきたい.

<参考文献>

結城匡啓,スピードスケートのスキル指導におけるバイオメカニク研究の意義と役割,バイオメカニクス研究,4(3), 179-185, 2000