#20 力が大きくなることで速度は大きくなる

指導者向け

ウエイトトレーニングに取り組み筋力が向上することで高く跳ぶ,速く走るなどのパフォーマンスの向上に繋がると言われている.実際に定期的にトレーニングを行い,トレーニング前後でスプリントタイムや垂直跳びの数値を測定していればその変化をみとることはできる.しかし,なぜそのような数値の変化が起きているかについて述べられることは少ないと感じる.今回は力が向上することでなぜ速度の向上に繋がるのかの基本的なことについて力学的に考えてみようと思う.


1.力と速度,変位の関係

2.発揮する力を大きくするためには

3.まとめ

1.力と速度,変位の関係

まず「力」について考えてみる.力はある物体の動きを変化させるはたらきのことを指す.Fを力,mを重さ,αを加速度とすると

F=mα

の関係が成り立つ.運動中,質量が一定だとすると力=加速度となる.加速度は1秒後に○m/s速度が大きくなるということを表したものなので,加速度が大きいということは速度が大きくなるということになる.例えばAが加速度1m/s・s,Bが加速度2m/s・sで1秒間動いていたとすると1秒後の速度はAが1m/s,Bは2m/s(図).

従って.力が大きいということは速度が大きくなるということになる.また,速度が大きいということは変位(物体の移動距離)が大きいので1秒後Aは1mしか動けないのに対し,Bは2m動くことになる.すなわち,発揮した力が大きいほどより大きな速度を生み出すことになりその結果,移動距離を大きくすることができる.スポーツにおいて考えると,発揮した力が大きいほど速く動くことができるので,オフェンスで相手を抜き去ったり,1歩目の加速が大きくなったりするだろう.従って,基本的には大きな力を発揮することはスポーツにおいて重要なことであるといえ

2.発揮する力を大きくするためには

では発揮する力を大きくするためにはどのようにすればよいのだろうか?これまでの研究でパワートレーニングやストレングストレーニングによってスクワットジャンプにおける記録の向上に伴い,床反力が大きくなったという報告がある(1,2).従って,ウエイトトレーニングやパワー系トレーニングによって筋力が向上することにより,身体が発揮する力が向上するといえる.特に股関節伸展に関わる筋群をトレーニングすることが重要であるといえよう.走動作,跳躍動作だけでなく,投動作においても股関節伸展の重要性が指摘されていることから(3),競技練習に加えてトレーニングによってそれらの筋群を鍛えることでパフォーマンスの向上に役立つといえる.

3.まとめ

「力」と聞くと重たいものを持ち上げるイメージがあり,筋力の向上によってパフォーマンスが向上することに結びつかない方もいると考えられる.力とは加速度のことであり,力が大きくなることで結果的に素早く動くことにつながる.トレーニングによって筋力を向上させることで,身体が発揮する力が大きくなる.その結果,より素早く動くことが可能になりパフォーマンスが向上することに繋がると考えられる.

 

<参考文献>

  1. Prue Cormie, Michael. R. Mcguigan, and Robert U. Newton, Adaptation in athletic performance after ballistic power versus strength training,  Med & science in sport & exercise, 2010
  2. Prue Cormie, Michael. R. Mcguigan, and Robert U. Newton, Influence of strength on magnitude and mechanisms of adaptation to power training, Med & science in sport & exercise,  2010
  3. 高橋佳三,投動作を助ける脚のはたらき,,体育の科学,56(3),2006
  4. 金子公宥,福永哲夫編,バイオメカニクス 身体運動の科学的基礎,杏林書院,2004