バイオメカニクスの勉強は指導にどう生きるのか

指導者向け

こんにちは、佐々木です。

バイオメカニクスに興味を持って本を買い、いざ勉強を始めたみたはいいものの、めちゃくちゃ数式出てくるし、物理の公式勉強しなきゃいけないし、そもそも勉強してこれどう役に立つの?と思っている方は少なくないだろうと想像します。

私は大学・大学院んでバイオメカニクスを専門に学び、論文も書きました。現在はパーソナルトレーナーとして主に選手やスポーツ愛好家の方のトレーニング指導をしています。

バイメカをかじっていると、「バイメカ勉強するのにいい本ありませんか?」と聞かれることがままあります。色々本を紹介したりするのですが、実際のところ「本を読んでも実践と結びつけるのって結構難しいんじゃないか?」と思い始めました。

つまり、「本で知識をつける=運動を力学的に考えられるようになる」とはならないんじゃないかということです。

そもそもバイオメカニクスを勉強するには力学がわからなければなりません(詳しくはこちらの記事でも解説しています)

そして力学がわかったとしても、いざ運動に落とし込んで考えようと思ったときに、そのハードルって結構高いんじゃないかって考えています。

歴史を学んでいて〇年にAという事件があって〇年にはBという事件があってAとBは本当はかなり関連がある話なのにそれがみえない、、、みたいな感じです。

力積ってなにかがわかったけどいざ運動で考えると・・・うーんみたいな。

Aの事件が起きた理由がわかればBの事件が起きた理由もわかる・・・みたいな繋がりは運動を考えるうえでも成り立ちます。

脚が後ろに流れる原因は何か

陸上の短距離選手で、「最近調子が悪くスピードがでない」と悩んでいる選手がいたとします。その選手が”脚が後ろに流れる感じがする”ということだったとします。このような選手にどのようにアドバイスを送ったらよいでしょうか?

ここで後ろに脚が流れる原因を考えましょう。

そもそもスピードが出ないということは速度が大きくならないということです。速度を大きくするためにはどうすればいいでしょうか?

速度を大きくする要因は力です。走るという動きで人が力を加えているのは地面だけです。つまりより大きな速度を得るためには地面に大きな力を加える必要があります(作用反作用とか細かい話は抜きです)。

では地面に力を加えられる局面はいつでしょうか?それは脚が接地している時しかありません。従って、速度が大きくならないということは足が接地している時の動作がうまくいっていないと考えられます。

もう少し詳しくいうと、速度を大きくするためには”時間”も重要になります。つまり速度を大きくするためにはより長い時間大きな力を加える必要があるということです。

仮に、10秒間に10という力を加えたとし、時間と力をかけることでトータルの加えた力を計算できるとしましょう。そして「トータルで加えた力=速度」になると考えます。

10秒×10=100なので、この例では、トータル100の力を地面に加え100の速度を獲得できたことになります。実際の運動でもこの法則が成り立っていて、速度を大きくするためにはトータルの力を大きくする必要がありトータルの時間を大きくするために、①時間を長くする②力を大きくするという2つが必要になります。

脚が流れるということに話を戻しましょう。脚が後ろに流れて速度を大きくできない場合、前述した2つの要因のうちどちらが原因は①と②のどちらにあるでしょうか?

脚が流れているということは地面を押し続けられていないということが想像できます。従って、押す力が小さくなっているというよりは②の力を加えている時間が短くなっている、つまり接地時間が短くなっているのではないかと考えられます。

予測をもとに動きを見る

では、接地時間が短くなってしまう要因を考えてみましょう。脚が後ろに流れるということを加味すると、足の着く位置が身体の後方になってしまって地面を押している時間が短くなってしまっていることが1つ考えられます。

このように力学的な視点で動作を考えたうえで、「こうなっているんじゃないか?」という予測を立てたうえで実際に動きをみます。

例えばビデオをみていい時と悪い時の動きを分析するのも一つでしょう。接地の位置が後ろになっていないかという視点を持ってビデオをみながら動きを分析することで、その動きが悪くなっている原因がわかるかもしれません。

なんかうまくいかないからとりあえずビデオを見る、ということはだれにもできます。しかし、何の考えもなしにビデオをみてもみえてくることは少ないでしょう。

このように運動を力学的な視点から考察できるようになると、うまくいかなかったときにその原因を考えるヒントを得られます。

力学は”どうなっているか”の説明に役立つ

ここまでやったことを改めて整理すると、脚が後ろに流れる動作は力学的に考えるとどのような動作かを説明し、そのうえで悪くなっている要因を考えるということです。

この視点があるかどうかで動きを見る時にみえること、わかることには雲泥の差がでます。ただ何となくではわからなかった多くのことが見えてきます。だからバイオメカニクスは知っていた方がいいんです。

ただし、わかるとできるは違います。ここが一番の肝で、“じゃあどうすればいいか”を力学的な考察をしたうえで考えなければなりません。バイオメカニクスは”どうなっているか”の説明できても、”どうしたらいいか”までは教えてくれません。つまり、動きを改善するためのドリルや意識はそれをもとに考えなければならないということです。

まとめ

力学を学んでスポーツに応用して考えることができれ、ば現場の指導中に困っている悩みや問題を解決する大きなヒントを得られることは間違いないです。

ただ力学とスポーツを関連させる時にめちゃくちゃハードルがあるということもなんとなく感じています。結局、勉強しながら考えるということにつつきるので、物理を勉強しながら「なぜ」をひたすら考えるしかないです。

(セミナー企画しようか考えてます)
「こんなこと知りたい」みたいなことがもしあればtwitterでもなんでもいいんで連絡いただければ嬉しいです。

<参考文献>
結城匡啓, 私の考えるコーチング論:科学的コーチング実践を目指して, コーチング学研究, 25(1), 13-20