計画的なトレーニングの重要性~抑えておくべきコンセプト~【書籍も紹介します】

指導者向け

主要な大会で結果を出すためには、それまでにどのような練習をして自身の競技力を向上させていくかを計画することが重要です。場当たり的な練習では知らぬ間に疲労が溜まり怪我を引き起こすばかりではなく、メインとなる試合や大会でベストなパフォーマンスを発揮することは難しいでしょう。

練習・トレーニング計画を立てるときは、環境、選手の体力・技術レベル、いつ・どんな大会に重きを置くのかなど様々な要因を考慮する必要があります。学生であれば、実習や試験なども考慮する必要があるでしょう。

今回はどのように練習・トレーニング計画を立てればよいかわからない方のために、計画を立てる際の基本的なコンセプトについて解説します。また、より勉強したい方のためにおすすめの本も紹介します。

1.トレーニング計画を立てるために

1−1.体力が向上するメカニズム

身体に「刺激」が入ることで身体は疲労します。そして適切な「休息」をとることで疲労が回復するとともに、刺激に身体が適応し体力が向上します。「刺激」が大きすぎたり「休息」が短すぎれば、怪我をしたり過度に疲労が溜まりオーバートレーニングになったりする可能性があります。また「刺激」が小さすぎたり「休息」を多く取りすぎれば体力は低下します。つまり、練習やトレーニングでは「刺激」と「休息」をいかに組み合わせて身体の適応を引き起こすかということが課題となります。

1−2.常にきつい練習をする必要はない

練習やトレーニングを計画する上で「刺激」の大きさをコントロールすることが重要です。

選手は常にきつい練習をすればよいのでしょうか?毎日全力で疲労困憊になるまで練習をし続ければ「刺激」が大きすぎるとともに、「休息」が間に合わず身体が回復しないので身体は適応しません。従って、なんでもかんでもきつい練習をすればいいということではありません。1週間の中で練習の強度をうまく配分する必要があります。「軽強度の練習をしていると強くなれない気がする」と思う選手もいるかもしれませんが、そんなことはなく、疲労を抜くためにも軽い強度の練習は必須です。

また身体を回復させて適応を促すためには「休息」が重要になります。トレーニングをしていないと不安でついつい練習をしてしまったり、オフを取れない選手は意外と多いです。何度もお伝えしますが、休まないと身体は適応しません。上手に休むことも練習の一つです。

1−3.“Functional overreaching”と“Non-Functional overreaching”

常にきつい練習するのはよくないとはいえ、強度の高い練習はパフォーマンスの向上に重要なことは間違いありません。

ここで“Functional overreaching”と“Non-Functional overreaching”という言葉を紹介します(1,2)。“Functional overreaching”とは高強度のトレーニングにより、身体が疲労し一時的にパーフォマンスの低下を引き起こしますが、適切な1〜2週間の休息をいれることでパフォーマンスの低下から回復し、より大きな適応を促すというものです。例えば合宿などで集中的に高強度の練習を意図的に行い、1〜2週間の適切な休息をするとることで身体に大きな適応を促すことを指します。

一方、”Non-Functional overreaching”とは意図せず「刺激」が与えられ続けることで身体が過度に疲労しパフォーマンスの低下を引き起こし、その回復には数週間以上を要するというものです。無計画な練習は意図せず過度な疲労を引き起こす可能性があり、それによってパフォーマンスの大きな低下や怪我を引き起こす可能性があります。

計画的な練習に基づき、適切に「刺激」と「休息」をコントロールすることでより強度の高い練習に取り組むことができるとともに、より大きくパフォーマンスを向上させることができる可能性があります。従って、意図しない疲労でパフォーマンスの低下や怪我を引き起こさないためにも、しっかりとした練習計画に基づいてトレーニングを進めることが重要といえます。”Functional overreaching”を用いてパフォーマンスの適応を引き起こすためには、知識と経験が必要です。より強度が高くなるほど怪我やオーバートレーニングのリスクがあるので、安易に追い込みすぎるのは危険です。

1−4.疲労を理解する

練習・トレーニングを計画するうえで「刺激」「休息」「疲労」のメカニズムを理解することの重要性はこれまでご説明した通りです。これらを理解するために様々な「モデル」が提唱されています。「超回復理論」が一番耳にしたことがある言葉ではないでしょうか?「フィットネスー疲労理論」というモデルもあります。これらのモデルを勉強し、トレーニングを計画するかしないかはトレーニング計画が大きく異なってきます。これらのモデルを理解することはとても大切です。

ここで自分が理論を説明するよりもより分かりやすく解説している本があります。ご興味がある方は2章で紹介するのでご一読ください。

2.練習・トレーニング計画を立てる時に読んだほうがいいおすすめの本


1章で紹介した疲労を理解するためのモデルについて詳しく書かれているとともに、試合でベストパフォーマンスを発揮するための「ピーキング」に関して詳細に解説されています。そもそもピーキングに関する本は少なく、これほど詳細に述べられている日本語の本はありません。練習・トレーニング計画を立てる上で重要なことがたくさん書かれています。とにかくおすすめの本なのでまだ読んだことがなければ即ポチりましょう。


この本も疲労を理解するためのモデルについて詳しい解説があります。また、overreachingやovertrainingについても詳しいです。また、練習強度や量、疲労などをどのように定量化するか(モニタリング)について詳しく書かれています。洋書ですがおすすめの1冊です。


いわずと知れたピーキング関する知見がまとめられている本です。洋書ですがきちんと勉強してみたい方は一読をお勧めします。

3.まとめ

怪我や過度な疲労を防ぐとともに、よりパフォーマンスを向上させるためには計画的に練習・トレーニングを進めることが重要です。実際には綿密なトレーニング計画を立てるためには知識と経験が必要です。よりよい競技生活を送るために、しっかりとした計画のもとでトレーニングをし、メインとなる大会や試合で結果を残せるよう取り組みましょう。

<参考文献>
1.Romain Meeusen, Martine Duclos, Carl Foster, Andrew Fry, Michael Gleeson, David Nieman, John Raglin, Gerard Rietjens, Jurgen Steinacker, and Axel Urhausen(2013), Prevention, Diagnosis and treatment of the overtraining syndrome: Joint consensus statement of the European College of Sport Science(ECSS) and the American College of Sports Medicine(ACSM), European Journal of Sport Science, 13(1), 1-24

2.Mike McGuigan(2017), Monitoring Training and Performance in Athletes, HUMANKINETICS