#32 フォームに対する考え(トレーニング指導を形作るもの)

指導者向け

最近色々な人と話す中で自分が行っているトレーニング指導はどんなものだろう?と考える機会が増えました。そこで自分のトレーニング指導で実際にどんなプロセスを経て指導しているかをまとめてみました。ここに書いている以外にもまだまだ大事にしていることはあると思いますが、今回はフォームに対する考え方からそれに繋がっている要因を含めて考えをまとめてみました。

1.その種目を行えば特定の部位が鍛えられるわけではない

トレーニングの教科書を見ると、例えばスクワットをすると〇〇と〇〇の筋が鍛えられると書いてあります。トレーニングジムに行ったことがある方であればマシンを見ると鍛えられる部位の記載があるはずです。マシンであれば書いてある部位から大きく外れることはないと思われるかもしれませんがマシンであってもわずかなやり方の違いで鍛えられる部位は変わります。それがフリーウエイトとなれば違いはより顕著になります。要するにこの種目をやれば〇〇が鍛えられるのではなく、この種目をこのフォームでやるから〇〇が効果的に鍛えられるということです。

2.フォームを作り出すためのルール

自分がトレーニングを指導する際、鍛えたい場所がありそこを効率的かつ効果的に鍛えるために数あるエクササイズの中から最も適切な種目を選択します。そして目的とする部位を鍛えようとする特定のフォームで実施するために「膝はこれくらいの角度で」とか「腰の張りは絶対にキープする」などのルールを与えます。そのルールのもとその種目を数回行うと鍛えたい部位が疲労してきてその部位から負荷を逃がすような動作(エラー)を起こします(※エラーは疲労からくるものだけではありません。他の要因からくるものもあります)目的とする部位が疲労してきてそこを使いたくないからこそ起こる身体の反応です。また、往々にして弱い部分が先に疲労するのでそのエラーからその人の弱点もわかります。そしてそのエラーを起こさないために横に立っている自分が指示(キューイング)を出します。そうするとエラーを起こさないように実施者は努力し、目指すべきフォームで行うという無理をします。この無理をすることは鍛えたい場所をより効果的に鍛えることにつながります。

3.フォームを作り出すルールが明確であること

その種目で鍛えようとしている目的の部位が明確でなく、ただ重りを挙げさせるのであればそもそも前提となるルールが曖昧になるでしょう。そしていくつかのルールがあったとしてもこのエラーを見逃してしまい、ただただ重りを挙げさせることになります。単に重りを挙げようと思えば、人間は賢いのでなんとか上がれるように色々な代償動作を起こし重りをあげることができます。しかし、この代償動作を伴って重りを上げることは目的とする部位を効果的に鍛えられないばかりか、結果的に傷害を生むような動作になっていることが多いのです。腰がぐわーんと曲がるなどはその典型でしょう。この代償動作をできるだけ起こさず、できる限り傷害のリスクが少ない上げ方をするためにも一定のルールがあります。従ってトレーニング指導とはただ単に「〇〇を〇kgで〇回〇セット行ってください」ということではなく、「パフォーマンス向上のためにこことここを鍛えたい。いまこの人にはこの能力(特に筋力と柔軟性)があるからこの種目をこのフォームで(このルールの下で)やれば最も効率よく効果的にその部位を鍛えることができる」といく過程のもと成り立つと考えています。

4.エラーを読み取る能力

自分が指定したルールに基づいて出来上がったフォームからエラーを見とることができることは、その人の弱点を理解することにつながります。そしてその弱点が分かるとその次にくる運動の選択に役立ちます。また、このエラーをどの程度許容するかもその指導者のさじ加減です。まったくエラーが起きない指導をしていても適応は小さいでしょうし、かといってエラーだらけでも傷害につながるリスクが高まります。どのエラーをどの程度許容するかを理解することはトレーニング指導において重要な一つのポイントにもなっていると思っています。先ほどの項でも述べましたが、運動指導のプログラムは「今日は◯◯と◯◯を◯回◯セットで行おう」という単純なもので出来上がってはいません。目の前の人の身体を理解し強味弱みを理解することからくる種目選択、回数設定、種目の配列があります。色々なことを理解すればするほどトレーニングプログラムを作る難しさを実感します。と同時に考え抜いたプログラムを数週間実施し、目的とした適応が起きて効果をクライアントと実感できたとき、大きなやりがいがあるのも事実です。

5.まとめ

もし目の前の人に曖昧なルールのみを与えなんとなく重りを上げさせるのもトレーニング指導なのかもしれません。しかし、お客様がわざわざお金を払い時間を割いて指導を受けにきていただいている以上そんなことはできません。より有効な手段を模索し、より効果のあるトレーニングを提供するのがトレーニング指導者の役目だと思っています。

今回はふとしたことから自分のトレーニング指導ってどんなものだろう?と思い、思うがままにまとめてみました。トレーニング指導をしているときに自分が行っている思考プロセスの一部を整理できたのではないかと思っています。生半可なことはできないのでプロとしてしかるべき努力を怠らないよう精進します。